Space Fantasy エメラルダス

作成:1997.12.07  更新:2003.05.18


(オープニング)

 
(歌)エメラルダスのテーマ
作・編曲/横山菁児  スキャット/川島かず子

 
ドラマ PART 1 「回想」
わたしはエメラルダス。宇宙にひとり生きる女。
アンドロメダ、プレアデス、エクタス13星、マゼラン雲、タイタン、ペルセウス・・・。
どれほどの時間、宇宙の暗黒の海をさまよい歩いたか。
たぎりたつ青春の血と夢を胸に、その昔後にした緑の大地も、青い大気圏の空も、はるか遠くの別の世界のこととしか思えない。
エメラルダス・クイーン。わたしとともに、はてしのない宇宙の空間を旅して、わたしとともに命の火をすり減らしている、わたしの船。
エメラルダス・クイーン。
耳を澄ますと、壁を伝わってエンジンの駆動する震動を感じる。心地よい命の鼓動を。
この船とともに旅をして、永遠に追い求めるものに巡り会えず、今、命の火を空しく消そうとしているわたし。
わたしとわたしの船が空間に漂う冷たい物体となったとき、誰がわたしたちのことを覚えていてくれるだろうか。
その存在の影さえもない無に還るのだ。
わたしはエメラルダス。宇宙をさまようさすらいの女。

エクタス13星系の第8惑星で巡り会った男は、わたしに不滅の愛を語ってくれた。
いや、火星でも金星でも、ガニメデやタイタンでも、人間の住むコロニーのあらゆる町で、男たちはわたしに変わらぬ愛を語っ てくれた。



男:「エメラルダス、輝くすべての星よりも、美しく気高いエメラルダス。わたしの 心は全てを忘れ、わたしの胸はたとえようもないくらいにときめいている。エメラルダス、わたしはわたしの全てを君に捧げたい。エメラルダス。美しい人。エメラルダス、エメラルダス、愛している。」

エメラルダス:「愛?あなたはもう何度愛していると言ったかしら。死ぬまで、その 命の終わるときまでわたしにその言葉を言えるなら。わたしとともに、わたしの船に。」

男:「船?」

エメラルダス:「そう。わたしの家、わたしの友達、わたしの夢。・・・そして私の 棺。」

男:「船だって?」

エメラルダス:「そう。エメラルダス・クイーン。わたしの船。」

男:「エメラルダス、エメラルダス、わたしは今ここで君を愛したい。」


その息遣いと、早鐘を打つ心臓の響きの中に、わたしはわたしの心を必要としない、つかの間の快楽だ けのための偽りを感じた。
わたしはエメラルダス。わたしの心を弄ぶ者をわたしは許さない。


男:「あーーーーーっ」

空しい男達の愛の言葉。それでも、時として美しい響きを持つ歌として、わたしの耳に残る。
ささやきが、くちづけの思い出が、時としてわたしをくじけさせそうになった。
エメラルダス・クイーンのわたしのキャビンで、歯を食いしばって過ぎ行く時間と戦ったこともあった。
追い求める、生涯をともにする男に巡り会う日までと、わたしは心に火を燃やし、大宇宙の無法の海を旅した。
憎み、戦い、傷ついて、わたしの身体には無数のエネルギー弾の跡が残った。



ドラマ PART 2 「出会」
アンドロメダ外周太陽系の惑星ゼーラ。そこでわたしは一人の男に出会った。

男:「誰だ、お前は。」

エメラルダス:「わたしはエメラルダス。あなたは?」

男:「名乗っても無駄だろう。どうせ、お前はすぐに俺の事など忘れてしまう。俺の 名前を覚えてくれる女などどこにもいない。何度もそういう目に合って、俺はそうと信じている。」

小柄な男だった。足が短く、頭が大きく、視力をテクタイトの永久レンズで補強した、わたしの理想と は程遠い、姿形の男だった。しかし、情熱が、その男が信ずる信念が、エネルギーとなって漂っているのがわたしには見えた。

男:「何か、食い物を持ってないか。」

エメラルダス:「船にあるわ。コーヒーもワインも。」

男:「俺が欲しいのは、血となり肉となる食い物だけだ。俺に残された時間は短い。 今の俺には、力となる食い物だけが必要なんだ。」


その胸には、希望と野心が赤い血と一緒に炎となって燃え、その瞳は、時間の壁さえも超越して、未来 を見据えるように輝いていた。
わたしの心は、吸い寄せられる風のように、その男の胸に寄り沿ってしまった。
男の身体は、宇宙という滅びることのない強敵と戦って、あかにまみれ、汚れ、多くの傷跡を残していたが、その信念と勇気に はいささかの揺るぎもなかった。
わたしは、脈打つ男の心の鼓動に我を忘れてしまった。わたし自身が、放浪する宇宙の戦士であることも、魔性の女であることも 、忘れてしまっていた。


エメラルダス:「ねぇ、わたしもあなたと一緒に行ってはいけない?あなたと一緒に この宇宙の旅を続けたい。」

男:「エメラルダス、俺を迷わせてはいけない。俺にはまだ戦いが残っている。」

エメラルダス:「でも、一緒にいたい。」

男:「俺を、卑怯者にはしないでくれ・・・エメラルダス。そのかわり、お前のたお やかな胸元に輝く、この短剣をもらって行く。」

エメラルダス:「短剣を?」

男:「俺は生涯この金色の短剣を手放さない。この短剣を、エメラルダス、お前だと 思って身につけて行く。この硬化テクタイトの剣が俺の身体から離れる時は、この宇宙の遠いどこかで静かに眠る時だろう。」


百億千億のアンドロメダの輝く星の海の中へ、男は消えた。
わたしの胸に、青春の燃える炎のすべてを残して、わたしの手に、温もりと確かな実在感だけを残して、去って行く男の後姿を見 送ったとき、わたしの目には涙がにじんだ。
帰ることのできないとわかっている戦いの旅に、男の意地をかけて旅だつ、その後姿を見送ったとき、わたしは涙を流した。
後には引けない信念を持って旅だつ、その後姿を見送ったとき、生涯でただ一度、わたしは泣いた。

探索するわたしのセンサーに、真空の空間をひき裂く衝撃銃の音が、重力波となって聞こえた。
飛び散る血の色が、そのあたたかさが、わたしにはわかった。
敵を見据え、男の輝く瞳がわたしには見えた。男の魂のおたけびが、わたしには聞こえた。
そして・・・男は二度と帰って来なかった。たとえ、足手まといになろうとも、嫌われることになろうとも、わたしは男につい て行くべきだった。

(「俺は生涯この金色の短剣を手放さない。この短剣を、エメラルダス、お前だと思って身につけて行く。」)

そしてわたしは、激しい戦闘の後の空間に漂うわたしの短剣を見つけた。
あの男がわたしの胸から抜きとって行った金色の短剣を、わたしは拾った。
硬化テクタイトの短剣の刃は、戦いの激しさを物語るかのように、こぼれ、先端は折れて無くなっていた。
それを手にしたとき、わたしにはあの男の無念の叫びが聞こえるような気がした。
生涯をかけた夢を果たせず、志半ばで死んで行く男の血の叫びが、わたしには聞こえたような気がした。
その短剣は、折れたまま今もわたしの胸にある。



(歌)星の旅人
作詞/山川啓介  作曲/菊池俊輔  編曲/横山菁児  歌/ささきいさお

(歌詞はねーやんのミュージックサロン参照)


ドラマ PART 3 「彷徨」
わたしはエメラルダス。宇宙を一人さまよう女。
宇宙を支配する時の流れに追われるように、わたしとエメラルダス・クイーンは旅を続けた。
男の幻を求めて、アンタレスの地獄の底をのぞき見、ブラックホールの物質の墓場をくぐり抜け、 時を刻み続けながら旅した。

壮大な宇宙船団を率いて、フロンディアへ向かう指揮官は、わたしの手を握り、わたしに語りかけた。

指揮官:「エメラルダス、わたしはヘラクレス座から来た。 わたしの目指すところは宇宙の楽園だ。永遠の生命と永遠の幸せをもつ、あの偉大な惑星へわたしは行く。 エメラルダス、共に苦楽を分ち合おうではないか。わたしの生涯と、この全船団の全てと、これから行く 楽園の全てを君に捧げよう。」


エレクタス座の暗黒星では、全身力と筋肉と美の固まりの山賊が、重力サーベル を振って、わたしを切り伏せようとした。

山賊:「エメラルダス、俺はお前を支配してみせる。物理的にも 精神的にも、俺はお前を支配できる。」


宇宙船団の指揮官の目にも、エレクタスの山賊の目にも、あの男の半分ほどの信念 の火も宿ってはいなかった。楽園のみを求めて、快楽の世界へ向かう亡者と、己の力と美しさに酔いしれる うぬぼれものの姿しか、わたしには映らなかった。
指揮官は、わたしの重力サーベルで目をえぐられ、舌を切られ、ほうほうの体で逃げ出した。
山賊は、心臓に7つの穴をあけられ、黒い血を暗黒星の黒い大地に流しながら死んでいった。

宇宙には地球では考えられないような世界と大自然がある。さまよう旅人はその中に命を落としていくのだ。 わたしは、放浪者達のかえりみられることのない死骸を、いくつもいくつも見てきた。白骨となった放浪者 の胸が風になって、悲しい後悔の歌を歌うのを何度となく聴いてきた。
いつの日か、わたしの骨が歌うかもしれない歌を。



(挿入歌)枯木霊歌
作詞/松本零士  作曲/菊池俊輔  編曲/横山菁児  歌/ささきいさお

(歌詞はねーやんのミュージックサロン参照)


星の海に、ひときわ明るく輝く星は、志半ばで死んで行った未来を 信じた男達の魂だと宇宙詩人は歌っている。あの男が、もしいま、その星のひとつになってしまった のならば、せめてその星のぬくもりにでも触れたいと思った。
わたしとエメラルダスクイーンは超新星の巻き起こす宇宙線を乗り越えて、星の嵐の中を旅した。

振り返ると、わたしを追う男の船がいることに気が付いた。快楽と野望に目をぎらつかせた男が、 エメラルダスクイーンの厚い装甲板を通して、わたしを見つめているのに気が付いた。そういう時、 わたしは、冷え切った大宇宙の魔女になる。

波動銃の衝撃波が、追ってくる男の船の壁を打ち破り、男の悲鳴が音も無く空間にこだまする。
わたしは、あの男だけを追う。あの男の存在感が、いま、確かにわたしの胸の中にある。 無限の空間の広がりの中に、確かにそれは存在しているのに、あの男の姿はどこにもない。



ドラマ PART 4 「旅発」
いつかわたしは、死を考えるようになっていた。過ぎ行く時間の流れがわたしとエメラルダスクイーン の命の火を少なくしていくのに気づいた。
思えばあの時、うとまれようと、嫌われようと、ついて行くべきだったかもしれない。力を合せて共に 戦い、共に宇宙のどこかで亡骸をさらすべきだったかもしれない。勇気の無い男達を嘲笑いながら、 あの時、わたしもまた真の勇気が欠けていたのかもしれない。さすがのわたしも気力を失いそうになって いた。
そういう時、宇宙気流の急流に住むサイレンの女神がわたしの名を呼んだ。


サイレンの女神:「エメラルダス、エメラルダス。こちらに おいで。男の言葉など空しいもの。男の思い出を追うなど愚かな行為。はははははは…。 エメラルダス、エメラルダス。あなたは女。女の心を温められるのは、サイレンの女神族だけ。さあ、 おいで。おいで、エメラルダス。」

サイレンの女神。遠い昔、わたしもサイレンの女神と愛を語ったことがあった。 夢を追い、宇宙へ出たばかりの頃、わたしは、サイレンの女神の愛の語らいに耳を傾け、胸を躍らせた。 そして、傷つき、疲れ果て、弱気になったわたしがサイレンの女神の透明な目に幻惑され、しなやかな その腕に抱きすくめられそうになったとき、わたしの耳に、確かに聞えた。

(「エメラルダス、俺は生涯忘れない。これはつかの間の 夢だとしても、エメラルダス、俺は生涯お前を忘れない。」)

衝撃銃が気流の上を青い火を吹いて走り、サイレンの女神の悲鳴が、遠く尾を 引いて空間に消えた。

サイレンの女神:「あーーーーー」

わたしはエメラルダス。宇宙に一人生きる女。


時間は容赦なく流れ、何故かわたしは、この無情な時の流れが、わたしをあの男のところへ連れて行って くれるような気がしはじめていた。遠からず、この時の流れの果てで、わたしはあの男と巡り会うことが できるかもしれないと。

誰かが昔言っていた。遠く時の輪の接する所、再び巡り会う日が来る。永遠の別れなどこの世にありはしない...と。


わたしはエメラルダス。宇宙を旅する自由の女。わたしの命の火は今や燃え尽きようとしている。 でもわたしは行かなければならない。赤い血に白い髑髏を染め抜いたわたしの旗をなびかせて。 宇宙の海を行かなければならない。
この旗が、宇宙の気流と重力の嵐に破れちぎれてなくなる頃、わたしはもう一度追い求めるあの男に巡り会えるだろう。巡り会う場所がどんな所でも、わたしは後悔しない。わたしは、あの男の決して人を裏切らない胸の中で永遠の眠りにつくのだ。
わたしはエメラルダス。燃え尽きる時まで宇宙をさまよう魔性の女。
そして、永遠の暗黒がわたしを包み込もうとしたとき、わたしは死の床であの男の脈打つ鼓動を聞く。 重力波があの男の胸の鼓動のように、エメラルダスクイーンの壁を打った。
夢ではなかった。死の床の死神のささやきではなかった。あの男が死の床のわたしに手を差し伸べてくれたのかもしれない。横たわったわたしに重力波の鼓動が最後の力を与えてくれた。わたしは立ち上がり、あの男の鼓動が伝わってきた空間に船を向けようとしていた。
夢でもいい。幻でもいい。わたしはあの男の所へ行きたい。私はそれだけを考えて船を動かしていた。
わたしはエメラルダス。宇宙に一人生きる女。



(歌)エメラルダスの歌
作詞/山川啓介  作曲/菊池俊輔  編曲/横山菁児  歌/ささきいさお

(歌詞はねーやんのミュージックサロン参照)


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